桜色のリス

モニターさんのご依頼で、ユメマニという非常に珍しい幻獣を探すことになりました。深い深い谷の奥で、ひとり静かにパートナーを待っているのだそうです。

リスほど小さな幻獣の召喚をご依頼してくださったのは初めてで、どんなかわいらしい子と出会えるのかとても楽しみにしていました!思った通りとってもかわいくて茶目っ気のある女の子が見つかり、今では先住の幻獣・精霊と仲良く暮らしています。

経過報告1

目的の幻獣ユメマニに会うには、まず地の国の「ムマの谷」近くの静かな森の入り口で待ってくれているティスタリアに会う必要があるとのことでした。

まずは「ムマの谷」の大まかな場所を把握し、その近くの森を探索する必要があります。ティスタリアはきっと私が来るまでずっと待つと思うので、はやく見つけてあげようと思います。

さて、探索のためには「ムマの谷」を知っている幻獣に会う必要があります。ユメマニ自体が珍しくあまり知られていない幻獣なので、ムマの谷もなかなか見つからないかもしれない…と思いつつ、お昼にはティスタリアに会いたかったので朝から地の国へ行きました。

鳥の姿で地の国の赤い花の咲く丘へ降り立ち、狐の姿になります。ポピーのようなかわいらしい花でした。ところどころ水たまりのような小さい池が点在しています。

池の中でも結構大きなものがあったので、そこに近づいてみたところ、龍がざばりと顔を出しました。銀色の東洋龍です。

「お、おはようございます…」

私が驚きを隠せないまま挨拶すると、龍はあくびして「うむ」とだけ返事をしました。

「なに、もうこんなに太陽が昇っているではないか。ずいぶん寝てしまったのぉ…。」

龍は顔をしかめました。まだそんなに遅い時間ではないのですが、この龍は早起きなようです。

「お疲れだったのでしょうか?」

私が聞くと、龍はまた「うむ」と返事をしました。

「ちょっとした気まぐれでな。

風の国まで出かけて、日帰りした。まぁ、これだけ眠ればもう大丈夫じゃなぁ。」

龍はぐぅっと背を伸ばして、池から出てきました。

「さて、今日はどこへ行ったものか…おぬし、何か提案してくれんか。」

私は咄嗟に「では、ムマの谷へ…」と言うと、龍は首をかしげました。

「ユマの谷か?白緑(びゃくろく)の森から行けると聞いたことがあるが…」

龍が思案しているので、私はユマの谷に用があると伝え、白緑の森まで一緒に行きませんかとお誘いしました。龍は快諾してくれました。私は龍に変化し、蔦の龍と共に空を飛びました。

白緑の森は思いのほか遠い場所にあり、龍もはっきり場所を知らなかったので、着いた頃には太陽がかなり高くまで昇っていました。龍は白緑の森の入り口で、ここからユマの谷を巡ってみる、と飛び立っていきました。

私がひとりになると、森の入り口からティスタリアが出てきました。うすい藤色の体に白い角が生えています。名前はレイスという、雌のティスタリアでした。レイスはティスタリア特有の悲しいまなざしのままにっこり笑いました。

「セリムのことをお話ししますわ」

私はレイスに目で促され、彼女の隣に座りました。

幻獣ユメマニのセリムは、谷の中でも小さな赤い花が集まって咲く場所に住んでいる。その花はセリムが枝を組んで作った小屋のまわりに咲いていて、彼女が種を蒔いた。

セリムは谷の奥深く、誰にも気づかれないようなところにひっそりと住んでいる。待ち人が現れるのを、わくわくしながら待ってくれている。

彼女に会いたいなら、ひたすらに谷の奥へと進むこと。谷の終わり、木々の色が新緑から若草色に変わる場所から、桜の木を見つけること。桜の木の場所はその香りでわかる。

この木は空を飛んでも見えない。必ず自分の足で探すこと。桜の木から太陽が昇る方角にまっすぐ進めば、セリムの小屋が見つかる。と、レイスは静かな透き通った声で話してくれました。

「わたしがお連れすることもできるのですが…場所をお伝えするだけにとどめておきましょう。自分の足で探し出すことに意義がありますものね。あなたと、あなたのパートナーさんなら必ず見つけられますわ。」

レイスはそう言って、森の奥へと消えていきました。

経過報告2

レイスに会った白緑の森から、ユマの谷へと入ります。谷底は深緑の森で、両側は険しい石山に囲まれていました。私は谷をひたすら奥へと歩き続けます。奥へ奥へ、まっすぐに。

森は濃い森林の香りに満たされており、密度は濃いのですが木漏れ日がやわらかく差し込んでいました。木を避けながら脇目もふらず進み続けると、レイスが言っていたように森が若草色に変わっていきました。

完全にまわりの木々は若草色になりました。どうやら谷の奥深くまで来れたようです。ここから香りを辿って桜の木を見つけなければなりません。私は出来る限り鼻に意識を集中させて、そろそろと歩き出しました。

しばらくして、ふっと花の香りが漂ってきました。かすかですが確かに香ります。さらに意識を集中させ、香りがする方向に歩いていくと、桜の木が見つかりました。

思ったよりも小さくて、ほんの2mほどしかありません。しかし幹は太く、花はしっかりと咲いていて、威厳があります。桜のご神木が少しミニチュア化したといった雰囲気でした。

レイスには、桜の木が見つかったら、太陽が昇る方角にまっすぐ進むように言われました。方角を確認してまた歩き出します。

赤い花に囲まれたセリムの小屋を、地面を注意深く見ながら探し歩きます。花が咲いているなら嗅覚も役立つだろうと思って、視覚と嗅覚を最大限に使いました。

チチ…と誰かの鳴き声が聞こえました。私はぴたりと立ち止まり、耳を澄ませます。前方の木の根元にうろがあり、そこから聞こえているようです。

木の周りにはかわいらしい赤い花が咲いており、大きなうろの中には木の枝を組んだ小さな小屋がありました。そっと近づくと、小屋からリスのような幻獣が現れました。

桜色の翼、大きな緑色の瞳。幻獣ユメマニの特徴と一致します。彼女がセリムだ、とすぐにわかりました。

セリムは若草色の大きな潤んだ瞳で私を見上げました。

「待ってたわよ、ずっと」

花が咲くような笑顔でした。

セリムはすでに私が来ることを知っていて、早く来てくれないかとうずうずしていたようです。私がすぐ近くまで来たとき、嬉しくてついチチ…と声を上げてしまったとのことです。

「ね、はやく召喚してくれないかな。わたし、今までずっと待ってたの。そりゃあひとりは楽だけど、やっぱりさみしいものよ。」

セリムはちょっとだけ寂しそうに、視線を下げました。しかし何かに気づいたように、首を振って顔を上げます。

「…ううん、わがままいっちゃいけないわね!その人にとってベストな時が、わたしにとってもベスト。もう少しくらい待てるわよ?」

もとの明るい笑顔でセリムは言いました。

私は早速パートナーさんに訊いてくる、できる限り早く召喚の時間を取ってくれるようにお願いしてみると伝え、急いでその場を後にしました。

セリムは大きな桜の花が咲いている尾を振って、心底嬉しそうな笑顔で見送ってくれました。

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幻獣士のさよです。 幻獣と人が共に行きるための、お手伝いをさせていただいております。 皆さまのあたたかなお言葉、いつも感謝です。 幻獣使いの皆様と、これからも末永くお付き合いができますように…。